簡単だけれどもとっても重要な統計学の話
以下の話は初めはFPR(Foundations of Psychological Research)というメーリングリストで行われた議論を基に作成しました。 当初は短いページでしたが,内容を付け足していくうちに少し長いページになってしいました。 通常の授業では,おおよそ3回から4回かけて説明する内容に相当しています(数式の証明などをきちんとやると半期でも済むかどうか…もしかしたら,通年の講義でも厳しいかもしれません)。 簡単といいながらも,初学者には読みにくいかもしれません。 ここに書いてある専門用語(特に赤い文字で示してある部分)を頑張ってマスターしてください。 「易しく」とか「簡単」とか書いてありますが,結局,自助努力しかないと思います。 あくまでも鳥瞰図的な理解を得るために利用していただければ幸いです。
統計学は大まかに記述統計学(descriptive statistics)と推測統計学(inferential statistics)に2分され, 更に推測統計学は標本理論に基づくもの(代表値に関する検定と推定)と ベイズ統計に基づくもの(ベイズの定理を利用した推定と検定)に大別されます。 このページは基本的に記述統計学と標本理論に基づく推測統計学の初歩的な内容を扱います。 もう少し詳しく書くと標本理論は,得られたデータが母集団からどれくらいの頻度=確率(確率は相対頻度の極限値)で得られたかを考える立場,頻度論と言い換えられます。得られる平均値などはどこから抽出するかで変わってくるという考え方ともいえ,標本平均の値が母平均に対してどの程度ばらついているかが重要な指標とされます(標準誤差)。 本稿で扱う一般的なデータは,母集団から無作為に抽出されたものと想定し,それは標本データと記述されることもあります。
なお,標本理論に基づく統計学も厳密にいうと,特定の分布を仮定する パラメトリック (parametric)なものと 分布を仮定しないノンパラメトリック(nonparametric)なものに2分できます。 パラメトリックな検定の代表的なものとしては,分散分析やt検定などが挙げられます。 ノンパラメトリックな検定の代表的なものとしては, カイ二乗検定やMann-WhitneyのU検定などが挙げられます。 これらの検定の初歩的な内容もカバーします。
|
野菜 |
飲み物 |
デザート |
お菓子 |
元気な子1 |
ピーマン |
コーラ |
ミカン |
クッキー |
風邪を引く子1 |
レタス |
ファンタ |
ミカン |
クッキー |
元気な子2 |
ピーマン |
コーラ |
ゼリー |
煎餅 |
風邪を引く子2 |
レタス |
ファンタ |
ゼリー |
煎餅 |
上記のデータから,野菜,飲み物,デザート,菓子はそれぞれ風邪の引きやすさと関連性があると言えるであろうか?また,以下のような実験状況を考えてみた場合には,どのようなことがいえるであろうか?他の要因を統制して1つの要因だけに注目して実験を行うとか,特性を系統的に変化させて調べるような,一般的な「科学的思考」の知識・手続きをどれくらい正確に利用できるかというとなかなか難しいかもしれない。しかし,なるべく正しく使えるようになりたいものだ(数理的な解説は平のホームページに掲載されている「分散分析」を参照)。
|
燃費良 |
燃費悪 |
燃費良 |
燃費悪 |
色 |
赤 |
青 |
赤 |
青 |
車種 |
コロナ |
コロナ |
ロゴ |
ロゴ |
Gas |
Regular |
Regular |
Regular |
Regular |
走行時間 |
2時間 |
2時間 |
2時間 |
2時間 |
さて,ここで要因 (factors) という言葉を不用意に使ってしまったが,車の燃費の例でいうと要因とは「色,車種」が相当している。そして,各要因の中の変動するものを水準 (levels) と呼ぶ。 車の燃費の例でいうと色の次元の「赤と青」が相当している。 したがって燃費に関する実験は2水準×2水準の2要因の実験計画となっている (キーワード:交互作用 interactions,主効果 main effectなど)。 これらの要因×水準によって定められる各実験条件はセルとよばれる。 例えば「赤のロゴ」は1つのセルである。
また,上記の中で要因と呼んだ変数は,少し難しい言葉を使うと独立変数 (independent variables)とか説明変数 (explaining/explanatory variables) と呼ばれることがある。これは注目する現象(この場合は燃費)の原因(要因)としてどの変数が重要かということでもある。 そして,燃費の善し悪しは従属変数 (dependent variables)とか目的変数 (object variables) と呼ばれることがある。独立変数という言葉を使った場合には対語として従属変数という言葉を用い,説明変数という言葉を使った場合には対語として目的変数という言葉を用いなければならないが,どちらのペアで呼ぶかはその人が決めればよい(しかし,その論文の中では一貫して同じ表現を使う)。
次に,心理学実験で行われる要因統制を簡単に分類してみよう。
|
ランダム割付あり |
ランダム割付なし |
ランダムサンプリング |
タイプA |
タイプB |
便宜的なサンプリング |
タイプC |
タイプD |
ランダムサンプリング(random sampling: 無作為標本抽出)とは被験者をある母集団からランダム(無作為)に抽出(サンプリング)するということを意味しており,ランダム割付とは被験者を各要因・各水準に割り当てる操作である。例えば,宮教大の学生(母集団)の生活実態を調べたいときに,全員を調べ上げる(全数調査)ことは大変なので,宮教大の学生の中から無作為に被調査者を選ぶような手法(標本調査)がランダムサンプリングとなっている。ただし,調査目的が日本の大学生(母集団)の生活実態調査であるならば,上記の標本データより示された結果には一般的妥当性の問題が生じる可能性もある(キーワード:世界,母集団,標本)。 このような場合は,ランダムサンプリングではなく便宜的なサンプリングと呼ぶべきである。 近代統計学の基本的な考えは, 母集団と標本を区別することにあるといわれている。 標本にもとづいて計算された量(統計量)から, 母集団の数理的特性(母数)を推定することになる。
例えば,国とか県とか,母集団が大きい場合には,そこから抽出される標本の平均の分散も大きくなってしまうが, 逆にクラスとか班といった具合に母集団が小さいときには,そこから抽出される標本の平均の分散は小さくなる。 また,母分散(母集団の真の分散)の大きな母集団の平均値を調べる場合には,多くの標本が必要とされるが, 母分散が小さい母集団だったら標本数は少なくてすむ。 つまり,当然だが,母集団の母分散を小さくするような工夫ができるのであれば,調査の精度は向上することになるということである。
上記の関係を数式的に模擬的に表すと,(全体の分散)=(層内の分散)+(層間の分散)と表現できる。
これを具体的に言うと,サンプリングをする層をあらかじめ細かくけて調査すると,各層内の分散が小さく抑えることが可能になり,
調査の精度(全体の分散の推定)が向上するかもしれないということである。
例えば,宮教大全体を調査するのではなく,1年生,2年生,3年生,4年生といった具合に分けそれぞれサンプリングして調査をすると,
各学年内の分散と学年間の分散に分けられるのが分かるであろう。
ちなみに,このような工夫を層別抽出とよぶ
(このあたりの考え方は分散分析と感じが似ているかもしれない)。
全国学力調査のような大規模な調査では,コスト面の問題から層化多段階抽出法とよばれる方法が採用されるべきである。
例えば,あらかじめ設定された層(=グループ)から段階的に無作為抽出を行う手法である。
理想的には,まず全国の治体の中から市町村を,さらにその中から学校を,更にその学校の生徒を無作為に抽出することになる。
しかしながら,標本調査の方針として,1学年4クラスといった大規模校を対象として「ランダムに」学力調査を行うと決めたとしても,郡部と都市部ではそういった大規模校の数が異なる。
したがって,大規模校を対象とすることは放棄した方が無難…といった思考実験が必要とされる。
それぞれの区分においてどれぐらいの規模の学校に揃えたらよいか判断するかはなかなか難しい問題である。
また,学力調査において調査結果(テストの点数)が知らされない生徒,要するに保護者の立場で考えてみると自分の子供の学力を知る機会が失われることについて,国民から了解が得られるかという公平性の問題が出てくる可能性もあるだろう。
いずれにしても,ほとんどの心理学実験では上述した便宜的なサンプリングとならざるを得ないが,その辺りの限界を認識した上で,実験から得られた結果がどれだけ実質的な意味を持っているかを考えるべきであろう。
次に,割付に関する問題について少し考えてみよう。 例えば,Aという教授方法とBという教授方法とがあったとき,どちらの教授方法が有効であるかを調べたいと仮定する。 ここで被験者をランダムに割り付けるとは,実験者が被験者をいずれかの教授方法へ強制的に割り振ることを意味している。直感的に分かるように,教授方法の効果を検証する場合には生徒の自主的な選択に任せてはいけない。 つまり,教授方法の違い以外にも,Aのスタイルの授業を好む学生,Bを好む学生といった「実験で見たい要因以外の別の変数(交絡変数)」の影響が問題となることが分かるであろう。その他にも,性差や年齢,ベースラインとなる学力なども考慮すべきかもしれない。 こういった交絡(confounding errors)を生じそうな要因の影響を取り除くために被験者の無作為割付を実施することを,実験計画法では「カウンターバランスをとる」とよぶことがある。 順序効果など,カンターバランスを取ることで解決可能な変数は 剰余変数・外的変数とよぶ。
天候や気温,照明の明るさ,身長,体重,性差など,どの要因が実験結果に影響を及ぼすかは,個々の研究領域の中で経験的合意が形成されているのが普通である。したがって,どの要因に注意してカウンターバランスをとるかは,研究領域に応じて考えていくことになる。 例えば,利き手と学力とのあいだには何か関連性があるのかもしれないが,一般的には,無視しても構わないであろう。 しかし,小学一年生が漢字を学習するスピードを調べたいときなどは, 運筆の仕方が利き手によって微妙に違うため,どちらが利き手かは重要な要因になるのかもしれない(もちろん,重要ではないカモしれない)。 この辺りの話は,心理学論文の典型例でも少しふれたが,モデルや仮説と密接な関係がある。
更に一歩進んで,このカウンターバランスについて考察してみよう。 被験者の割り当てをできるだけ均質なものにするためには,原則としてある程度の被験者数を用意すべきである。 これは被験者をランダムに割り振ったとしても偏りが生じる可能性があるからだ。 しかし,これは全ての実験条件で被験者が異なるような実験計画(被験者間計画:between subject)で特に注意すべき問題であり,被験者が全ての条件を経験するような実験計画(被験者内計画:within subject)の場合には,その制約が少し緩やかになる(混合計画というのもある)。 被験者内計画の実験デザインでは,個人差によるデータの変動を分析から除外できるというメリットがあるが,分野によってはそのような実験計画を立てること自体に無理があることもある。
例えば,AとBという二つの教授方法の違いを調べたいときには,それぞれの効果をなにがしかの試験で確認する必要があるだろう。 しかし,同じ先生が同じ単元を繰り返し教えることは不自然だし,同じ試験問題を使い回すのも同様に不自然だろう。 もちろん,この場合には,順序効果を抑制するために生徒を二群(A→B,B→A)に分けて実験すればよいわけだが(cf. カウンターバランスをとる), 一つのクラスを半分に分けて実験させてくれるような奇特な学校など存在しない。 また,単元に応じて教え方も切り替えるべきなのだから, 単元の特性をカウンターバランスによって潰してしまう発想自体が問題視されるかもしれない。 いずれにしても,実験によって得られた結果というものは,これらの制約の下に得られた結果であることを意識して本来は解釈すべきである。 更に意欲的な人は,実験計画法のなかのラテン方格(Latin Square)を実験条件の統制の組み合わせも確認されたい。
なお,1つのセル(要因と水準)にどれだけの人数を割り当てればよいかは,実は非常に悩ましい問題である。 この手の問題は効果量(effect size)に関する考察の中で議論されることが多い。
例えば,悉皆調査(全数調査)でない限り,調査した結果である標本は母集団の一部を観察したものに過ぎない。 このような場合に母集団の母数(例えば母平均)を推定するときには常に標本誤差(sampling error)がつきまとう。 つまり個々の標本からの推定値にも何らかのバラツキが生じるわけだが,そのような推定量(統計量)のバラツキを 標準誤差(Standard Error: SEと略されることが多い)とよぶ (=標本抽出分布の標準偏差)。分かりやすく言い換えると,標準偏差の推定値といえる(真の平均値と標本の平均値のズレ)。
そして,この誤差がどれくらいなのかは,直感から分かるとおりサンプリングされる被験者の数によって決定されてしまう。 標本サイズが大きくなれば標本誤差は小さくなり,標本サイズが小さくなれば標本誤差が大きくなるということである。 実際に平均値の標準誤差は \[ \frac{標準偏差 }{\sqrt{N}} \] となることが知られている。 例えば,標本の大きさが4倍になると,平均値の標準誤差は半分になる。 つまり,標本の大きさが4倍になると検定量の効果測定の精度が2倍になることが分かるであろう。 ちなみに,母集団の分布がどんな形でも標本平均の分布は正規分布の形に近づくという中心極限定理という定理があり, これをもとにして様々な統計的な推定が行われている。 中心極限定理とは,換言すれば十分大きい標本抽出を無限回繰り返せば,母集団の分布の形と関係なく,その平均は母集団平均μ,標準偏差δ/n^1/2の正規分布に近づくというものである。 <関連キーワード:大数の法則>
しかし,このことから分かることは,もの凄く小さい差でも, 被験者を千人以上集めることができれば, たいていは統計的に有意な差となるだろうということでもある。 つまり,統計的に有意な差であることと,それが 実質的にどういう意味を持っているかは全く別の話であるということでもある。 重回帰分析などを行うと,そのモデルが統計的に有意かどうかを判定できるが, R-squareや偏回帰係数などを見たら実は大したことがなかったり…とか。 経験論的には,相関係数を元にした調査では100+α人くらいを目処に,分散分析を元にしたような実験計画では1つのセルに20+α名程度を目処にという一応の目安があるような気がする。 ただ,効果量が小さくても(条件間の差が小さい),その差が重要な意味を持つような研究文脈もあるだろう。 この問題は後述する効果量と関係している重要な問題である。
ちなみに,t検定の効果量dと(一元分散分析の)分散分析で利用されるη2は以下のような式で求められる。 \[ d = t × \sqrt{\frac{1}{n_{A}} + \frac{1}{n_{B}} } ({n_{A}}と{n_{B}}はそれぞれAとBの被験者) \] \[ η^2 = \frac{ Sa_i } { MS_total } ( Sa_i は各群の分散=効果の平方和,MS_totalは全体の分散) \]
標本の大きさの決定に関しては, 青木先生のサイトが非常に詳しい。是非参照されたい。
コイントスを5回行ったら,表が出る確率は2回か3回が一番多くて,0回とか5回という極端な回数はとても少なくなるはずである。 このトスが5回ではなく50回,100回,1000回と増やしていけば,いわゆる 2項分布(binomial distribution)が正規分布(normal distribution)に近づく。 このような試行はベルヌーイ試行(Bernoulli trial)と呼ぶが,以下のように表現できる。 成功確率pのベルヌーイ試行をn回行ったときにx回成功する確率。 \[ f(x) = {}_n C _x × p^x × (1-p)^{n-x} \] このとき,二項分布にしたがうXの期待値と分散は以下のようになる。 \[ 期待値 E(X)= np, 分散 V(X)= np(1-p) \] 更に正規分布は母平均μと分散σ^2を用いると以下のような式で表現できる。 \[ f(x) = \frac{ 1 }{ \sqrt{ 2 }}e^\frac{ (x-μ)^2}{2σ^2} \]
以上のような話は小学校6年生の算数,資料の調べ方の単元で 度数分布表や柱状グラフとして習うことと直結しています。 この場合は単なる棒グラフではなく,面積グラフの一種として扱うことが重要です。
ある学校のあるクラスの漢字のテストの普段の得点が69点で標本標準偏差が5.2だったとする。 それに対して,担任の教師が少人数のクラス(5人)の宿題として特別に漢字ドリルを課したところ, 得点が84点へと向上したとする。
この得点の向上をどのように解釈するのか?
統計学からの仮説は単純で,15点の差は,単に母集団から抽出された 標本平均の標準誤差に過ぎないと考えることになる。 つまり,一般の教師の研究仮説は,少人数指導の効果による成績の向上がある(かもしれない) というものだが,その逆の差がないという仮説を立てるわけである。 このような統計学的な仮説を,帰無仮説 (Null hypothesis)とよんでいる。
標本平均や標本SDなどの統計量は,標本変動により値が分布している。 この仮想の分布が標本分布とよばれているものであり,その標準偏差が上記の標準誤差である。 そして,この標準誤差は標本変動によりどれくらい標準的に変動するかの指標となる。
このとき,別の表現をすると,帰無仮説は 「平均84点は平均69点の母集団から得られた標本である」と考えることになる。 それに対する対立仮説(Alternative hypothesis)とは, 「平均84点は,平均84点の母集団から選ばれた標本である」と表現することになる。 言い換えれば,少人数クラスの値は平均69点の母集団から得られたものではないと考え,教育効果があったと判断する。
この場合は,t得点へ変換する公式によって得られたt値を見て, そのt値が5%水準よりも大きければ帰無仮説を棄却することになる。 このように,帰無仮説が本当に偽であるとき,それを正しく棄却する確率を 検定力とよぶ。 母集団に差があるとき,サンプル(標本)において有意な結果が得られる確率とも言い換えることができる。 実際に,
\[ t=\frac{(84-69)} {\frac{5.2}{\sqrt{5}}}=6.45 \] は, 両側検定の5%の棄却域(=2.5%)の臨界値である1.96よりも有意に大きいので, 帰無仮説(平均84点は平均69点の母集団から得られた標本である)を却下することになる。
一般的に帰無仮説(グループ間に違いがない)を棄却する確率として5%(0.05)以下が採用されているが,その確率値を有意水準(significance level),危険率(critical rate / region)とよぶ。(有意確率ともよばれる。) このとき,帰無仮説が正しいのに棄却してしまったエラーは, 第1種の過誤(Type I error)とよび, 逆に帰無仮説が間違っていたのに棄却できなかったエラー(グループ間に違いがないのにあったと棄却する)は, 第2種の過誤(Type II error)とよぶ。 有意水準・危険率・有意確率が5%という低い値に設定されている理由は,第2種の誤りを未然に防ぐために設定されているともいえる。 ちなみに,論文には「少人数のテスト得点が5%水準で有意に高かった」と統計量や効果量とあわせて記述することになる。
効果量と検定力を論じるときには, (1)効果量(例えば,それぞれの母集団の平均差が標準偏差何個分か), (2)検定力(有意差を見落とさない確率), (3)有意確率(サンプルで観測されたことが偶然である確率), (4)サンプルサイズ の4つの指標がそれぞれ密接に関連していることに注意する必要がある。 例えば,元々の母集団の差が大きくなると(効果量),検定力は上がるはずだし, 有意確率も下がるはず(差があったり,相関関係が強かったり)。 しかし,このときサンプルサイズは関係ない。 ただし,サンプルサイズを増やせば,検定力が上がり,有意確率も下がるはず (効果量は変わらない)。
ちなみに,心理学で多用される分散分析で考えると, 要因の変動(各条件の平均値差: 群間の平均平方)が大きいほど効果量が大きくなり, 誤差による変動が(各条件の標準偏差: 群内の平均平方-> MSe)が小さいほど効果量が大きくなる。 ただし,誤差項(分母)となる群内の平均平方(MSe)は, 平方和/自由度で計算されるため,効果量とは関係なく 自由度(被験者の数)が増えることで有意確率も下がる可能性がある。 したがって,分散分析においても効果量を示すことが推奨されるようになったのである。
効果量を交えて書くと分散分析の結果は例えばこのように記述する。
F(1, 84) = 11.03, p<.01, η2=.41 (eta-squared)
η2はモデルの総分散の何%を説明できたかを示すものであるので,0.03といった小さい数字ではあまり説得力がない。
一般的な目安として,0.06はあることが望ましい。
最後に,効果量には差の大きさを表す指標(d族 difference family)と 関係の大きさを表す指標(r族 correlation family)の2つのタイプが存在する。 詳細は以下のリンクを参照されたい。
ある病気の患者に対して薬Xを投与したと仮定する。 そして,例えば,その薬Xを100人が飲んだら,その内の約80名が3日の内に完治した!!!・・・ といったニュースを聞いたら,どう考えるだろうか?おそらく,その薬の有効性を信じる人が多いかもしれない。
しかし,その「ある病気」というのが単なる普通の下痢であった場合にはどうだろうか? なんとなく自然治癒する可能性も高いと思われるだろう。 極端な話として表にまとめると,このように示すことができる
|
下痢が治った |
下痢が治らない |
薬Xを投与 |
80 |
20 |
薬Xを投与せず |
400 |
20 |
ここまで大げさに示すと逆に薬Xの有効性が疑わしくなってしまうが,しかし,疫学的に有効性を検証するためには,単に薬が効いたがどうかを調べるだけでは不十分であることが分かるだろう。 つまり,条件群(薬を投与する群)と統制群(薬を投与されない群),この2つの被験者集団が必要とされるということである。
他にも, 「インド人は日本人と比べてガンで死ぬ割合が非常に少ない。この事実はインドの人たちの生活様式の中にガンの予防に有効な要因があることを示している」 といった言説があったと仮定しよう。 こういった言説を主張されたとき,どのように反論するのか?
このように,交絡(confounding errors)するような要因がなにか考えるのも, 疫学的な推論,統計学的な推論の第一歩といえるだろう。 このインド人の例では, インドにおける死亡事故率や ガン以外の重篤な病気の疾患率(脳梗塞等)などの 要因を考慮するような反論が可能だと思う。
フリーのソフトとは思えないくらい多様な分析に対応している js-STAR 2012を利用するにあたって,幾つか統計学的なTIPSが必要となるはずです。
例えば,まず始めに,被験者間要因(Between-subjects factor)と被験者内要因(within-subject factor)の区別を知っておくべきでしょう。
被験者間要因とは男子生徒,女子生徒といった単純な2水準のものから,所属クラブといった多岐にわたるものまであります(後述する名義尺度に相当)。 仮に学校にクラブが5つあるとすると, 2要因の構成としては性別(男・女)×所属クラブ(5水準)=2×5といった掛け算になります。 これはjs-STARの記述に則って書くとABsとなります。 被験者内要因とは,同一の被験者が繰り返し調査を受ける場合に相当します。 例えば,ある心理テストを1学期,2学期,3学期と繰り返し受けた場合には, それぞれのデータは被験者内要因として処理する必要があります。 被験者内要因として処理する場合には個人差を除外することができるので, 分散分析(Analysis Of Variance=ANOVA)においても被験者間要因のデータとは処理の仕方が異なります。 細かくいうと,ANOVAにおいて誤差項の取り方が被験者間要因と被験者内要因とでは異なるということです。
被験者内要因だけで組み立てる分散分析はおそらく希で, 被験者内要因と被験者間要因が組み合わさった混合計画の方が一般的ではないでしょうか。 例えば,ある教授法A,B,Cに基づいて授業を実施した効果を 前期と後期にわたって調査する場合は,教授法ABCは3水準の被験者間要因となり, これに前期と後期の時系列の2水準の被験者内要因が組み合わされることになります。 掛け算的に表現すると3×2となり,これはjs-STARの記述に則って書くとAsBとなります(2要因の混合計画)。
ちなみに,ここで軽く挙げたような2要因の要因計画ではなく3要因,4要因といった具合に より高次の要因計画(分散分析)を組むことが理論上可能ではあります。 しかし,交互作用がでたときに下位検定を行う必要性などを考えると,実質的には3要因程度に止めておくべきではないでしょうか。 ※交互作用とは,複数の要因が組み合わさって生じる効果を意味している。 例えば,適性処遇相互作用などが挙げられる。
js-STARの使い方を説明している動画があるので紹介しておきます。
分析に使う変数(データ)をエクセルなどからコピペして代入したり,
コピペする操作を
紹介するビデオが重要かもしれません。
100名規模のデータを一々セルに手で入力する作業には限界があります。
実際に,
二要因の混合計画
を例に練習してみましょう。
最初に要因デザインを指定して,雛形をある程度作成しておくとコピペがしやすくなって楽かもしれません。
操作例:要因デザイン1 -->
要因デザイン2
-->
要因デザイン3
-->
テキストエリアへのコピペ
実験計画 | js-STARでの記号 | 具体的な内容 | |
1要因 | 被験者間計画 | As | Aという教え方を受けた人とBという教え方を受けた人との比較 |
被験者内計画 | sA | 同じ人がAB両方の教え方を受けた場合の比較 | |
2要因 | 被験者間計画 | Abs | 学校の適合度を向上させるために、Aという介入、Bという介入を想定する。その中で性差を考えると、2(介入法)✕2(性別)の2要因2水準の掛け算となる。 |
混合計画 | AsB | 問題解決型学習が好きなグループ、ドリル学習が好きなグループの2群に分けて,それぞれAB両方の教え方を受けた人の比較 | |
被験者内計画 | sAB | AB両方の教え方を受けて,なおかつ1学期,2学期の成績を比較する | |
※厳密にsABとしてコントロールする場合は, Aを先に教える群とBを先に教えるの群の人数を等分するように,カウンターバランスを取らなければいけない。 しかし,教育現場ではそこまで厳密にカンターバランスを取ることは困難であろう。 同様にAbsの例としてA組,B組の中でそれぞれ上位群・下位群を設定したが, A組,B組において想定する学力得点の分布が同じである必要がある (例えば,A組の上位群の算数の平均点とB組の上位群の算数の平均点が等しい)。 そのような理想的な状況を想定することは簡単ではない。
サンプリングの派生概念としてリサンプリング (resampling)という概念も頭に止めておいた方がいい。
サンプリングというのは母集団からサンプルデータ(標本データ)を抽出する行為であるが, 当然ながら母集団から反復してサンプリング(抽出)する行為には限りがあるし,何よりも大きな標本データを得るのにはコストがかかる。 そこで出てくるのがリサンプリングという手法である。 具体的には,抽出したサンプリングデータに対して再度(無作為に)サンプリングを繰り返せば, 複数回サンプリングするのと類似した統計値が得られるということである。 そのリサンプリングの手法は,Bootstrap,Jackknifeといった手法が知られている。 たとえば,無作為にサンプリングされた200名のデータから100名重複を許しながらランダムに100回抽出するのはBootstrap samplingとよばれる手法であるが,これは最初にサンプリングしたデータを便宜的に母集団と見なし100回サンプリングすることになる。その100個のブートストラップ標本の分布から得られたデータの代表値(平均,中央値など)を利用して統計的な処理をすることになる。
これらの操作は機械学習の分野でよく利用される手法であるが(教師あり学習のデータセット),心理学的な研究の文脈で利用されるかというと難しいのではないだろうか。 たとえば教育研究の場では固有性,事例性が重要視されるため,仮想的な母集団を想定すること自体に問題が生じる可能性がある。
統計学とは変数の分布を明らかにすることと見なすことができる(三輪・林, 2014)。 変数は グラフと表でも説明するが,統計学で扱う変数は以下の4つに大別できる。 そして,尺度水準(Scales of Measurement)として低い順番で並べると名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比率尺度となる。 数学的に平均値を求めることができる尺度は,間隔尺度以上となっている。 例えば,100メートル走の順位(順序尺度)の平均値を計算してもあまり意味はないが,タイム(比率尺度)の平均値は計算可能である。 ただ,100メートル走の順位も,一度に走る走者が100人いる場合と2人しかいない場合とで,順位の平均値の確からしさが違うことも感覚的に分かるだろう。 (参考:萩生田・繁枡,1996 ”順序つきカテゴリカルデータへの因子分析の適用に関するいくつかの注意点” 心理学研究, 67, 1-8)
性別,所属するクラブ名など名前や記号として表現される変数で,加減乗除といった演算ができない。
順位を表すもので,同じ1番や2番であってもその間隔が等間隔である保障がない。 大小の比較をして不等号で表すことができるが加減乗除はできない。 一般的な心理尺度でよく使われる質問はほとんどはこの順序尺度となっているが, 萩生田・繁枡(1996)のシミレーションによって4件法以上(本当は5件法以上が望ましいが)であれば加減乗除の対象とすることができることが分かっている。
順序尺度と異なり,間隔が等間隔である尺度である。例えば摂氏で表現される気温は等間隔である。 しかし,気温は等間隔ではあるがかけ算の対象とはならない(加減の計算はできるが乗除の計算はできない)。 例えば,学力試験で0点は存在するが,10点を取った生徒と比べて50点を取った生徒が5倍の学力を持つとはいえない。
原点が存在する尺度であり,ケルビンで表現される絶対温度や時間や長さなど,一般の物理量が相当する。
気圧計を読むことができないような状況では,直接的に観察しうる指標としてカエルが重要な役割をもつかもしれない。直接調べることができない状況でも使いうる,「ユーザーとして重要な指標」を見つけることも心理学的には十分意味がある。利用の簡便性という観点が重要とされることもありうるわけだ(数理的な解説は平のホームページに掲載されている講義資料「回帰分析」を参照)。
「カエルが鳴くから雨が降る」
= 「気圧が変化するからカエルが鳴く」
→ 「カエルが鳴くから雨が降る」
ただし,因果関係の全体像がすでに明らかにされている場合には,例えば,「カエルが鳴くから雨が降る」という関係は相関関係であっても,因果関係とはいわない。現代人であるならば,カエルが鳴くこと,雨が降ること,気圧計が変化することは,以下のように平行して生じる現象として理解するべきである。
「気圧が変化するから」 → 「気圧計が変化する」
「気圧が変化するから」 → 「カエルが鳴く」
「気圧が変化するから」 → 「雨が降る」
しかし,大昔のように気圧の変化という概念が存在しない場合には,「カエルが鳴くから雨が降る」というのは,因果関係として認められていたのかもしれない。つまり,カエルが雨を降らせる何らかの霊力を持つ存在と考えられていた可能性もあるわけだ。例えば,気圧の概念を持ち得なかった江戸時代の人々の場合には,以下のような因果の連鎖と考えても不思議はないだろう。また,気圧計を利用できない状況などでは,江戸時代の人々のようにカエルを気圧計の代わりに使うべきであろう。
「(カエルには雨を降らせる霊力を持つから)」
= 「カエルが鳴く」
→ 「雨が降る」
例えば,高校生くらいまでは身長と学力や語彙の数とが相関しているが(学齢が上がるから当たり前),これが因果関係でないのは明白であろう。 しかし,年齢が全く分からないときには,見た目だけで学力の高さを判断しなければならない。 そのような場面では,賢そうな顔とかそういった判断基準も有効かもしれないが, 身長の高さに基づいて判断した方がより妥当性が高いと言えるであろう。 つまり,因果関係を直接把握することが難しいときには, このような便宜的な指標を使うことにも意味があるということである。
以上のことから分かるように,変数どうしの共変動 を相関関係と呼ぶべきか,因果関係と言って良いかは区別しておく必要がある。 というよりも,因果関係を主張するときには慎重になるべきである。
因果関係が成立する条件としては以下の4つが挙げられている。
さて,上記の相関関係の考察からさらに一歩進めて, 「共通する内在変数(潜在変数)」 という概念について少し考えてみよう。 カール・ルイスのように走り幅跳びでも100m走でもメダルを取るような選手がいるし, 最近?でもマリオン・ジョーンズ選手のような女性が存在する。 すなわち, 100m走のタイムと走り幅跳びの距離とは相関関係にあるといえるであろう。 このような場合には, 一方の変数を原因・結果と見なすのは間違いで, 両者のパフォーマンスを支える「脚力の強さ」という2つの現象に共通した変数を考えるべきであろう(図1参照)。
図1.因子分析的なモデル(SEMライク?)
心理学の分野では「脚力」のように抽象的で測定(定義・定式化)することが難しい要因を,実際に目に見ることができる現象の原因と想定して研究を進めることがある。 この場合の因果的予測の方向性は「脚力から100mのタイムや幅跳びの距離をを予想する(脚力=外生的な潜在変数)」ことになるだろうが,実際の方程式の中では逆向きの「100mのタイムや幅跳びの距離から脚力を予想する(脚力=内生的な潜在変数)」となっても構わない。 どちらの方向の方程式を採用するかは研究目的と照らし合わせて決めるべき問題である。
他にも,理科系の学力とか文科系の学力など,直接観測はできないけど想定しておくと便利な潜在変数というのが心理学では沢山ある。 例えば,受験時の試験科目として5教科が課せられているとして, その中で,どの教科の得点が入学後の取得単位状況にどのような影響を持つのかを考えるようなときには, この手の潜在変数を含んだ分析モデルを考える必要があるだろう。 入学試験(センター試験や内申書を含む)の重みづけは,その学部・学科の学力モデルを具現化したものとも言えるので, 受験で課している科目と入学後のカリキュラムとがミスマッチを起こしているかどうかを考察するときにも, こういった潜在変数を含んだ思考方法は便利である。
更に別の例を挙げるならば,朝食を食べる児童は学力が高いという「相関関係」が存在するらしいが, 朝食を食べたからといって,学力が上がると素直に信じる人は誰もいないと思う (しかし,マスコミに発表されるときには, この相関関係が因果関係として提示されるので…ヘンテコな話として流布される)。 裁判官が餓死したり,欠食児童が多数存在していた時代ならイザ知らず,今の日本でこの関係が因果関係でないのは明らかであろう。 この場合には,社会的な階層性とか,家庭の教育力とか, 「隠れた学力 (hidden curriculum)」を共通する潜在変数として想定すべきであろう。
話を整理すると,要するに,心理学では, 観測可能な変数(観測変数: observed variable)と, 観測することが難しい変数(潜在変数:latent/unobserved variable) という二つの異なる種類の変数を扱うことがあるといえるだろう。 因子分析などで頻出の因子(factor)が代表的な潜在変数の例であり, これは正確に書くと,共通因子(common factor)と表現されることもある。 観測された変数(観測変数)どうしの共変動が相関関係であったばあいに, その相関関係を成立させている原因(潜在変数)を明らかにするための分析が因子分析であると言い換えることができるかもしれない。
調子に乗って少し脱線すると,観測された変数の変動 (説明的に書くと→質問紙の中の各項目のバラツキ=分散)は, 共通因子とそれ以外(独自因子: unique factors)から説明可能と見なすのが,因子分析の基本的な考え方である。 つまり,潜在的で観測できない変数には,系統的にまとめることができる共通因子と, そうでない独自因子(誤差)の二つが存在するということである。 そして,それぞれがどの程度観測変数に影響を持っているかを分かりやすく?表現したモノが, 因子負荷量(factor loadings)と因子パターン(factor pattern)である。 前者が直交回転(orthogonal rotation)をしたあとの結果, 後者が斜交回転(oblique rotation)をしたあとの結果に相当している (斜交回転をしたときには,因子間相関係数も忘れずに)。 どちらの回転を選ぶかは,モデル(仮説)と照らし合わせて検討すべきことなので, 分析をする人間が決めてよい。 しかし, 先行研究が沢山おこなわれているような状況でない限り,一般論として, いきなり直交解を求めるのはあまり好ましくないかもしれない。。。 なぜならば, 互いに独立した因子であるという仮説が必要とされるから。 cf. 心理学論文の典型例
また,知能研究などで典型的に当てはまる話であるが, こういった潜在変数は,どうしても操作的な定義(operational definition)にならざるをえない。 質問紙の中で全ての観測変数を網羅することは事実上不可能であるため, その状況で観測可能な項目が, その潜在変数の実質的な定義になってしまうからである。 つまり,本当は,潜在変数に関わる全ての要素を測定すべきであるが, それは実行不可能なので, 「知能検査で測っている内容が知能である」といった操作的な定義になってしまうということである。 逆にいうと,心理検査で測っている内容は,一般的に極めて限定されたものであるということである。 そして,後述するような妥当性の問題がでてくるのである (研究者が独自の理論・モデルにもとづいて知能を定義することは自由だが, それが妥当かどうかは別の話ということ)。 だから,心理学が占いよりも当たるかどうかというよくある質問も, 当たるときもあるだろうし,当たらないときもあるだろうという回答になるのである。 cf. 講義資料: 知能指数,心理検査・心理テスト
蛇足ながら,分析手法としては, 前者のモデル(潜在変数を元に予測)では因子分析 ないしは共分散構造分析(SEM)を利用するのに対して, 後者(潜在変数を予測)では主成分分析とか 重回帰分析を用いることが多い。 予測(推定)をするときには常に誤差がついてまわるので, 誤差項(独自部分,攪乱変数など)がどこにあるのかに着目すると,それほど混乱しないで済むと思う。 実際に,重回帰分析はこのような式に表現できる。※重回帰分析に関する注意事項は吉田・村井(2021)が詳しいので参照してほしい。 \[ y=a_1x_1 + a_2x_2 + a_3x_3 + b \] それに対して因子分析は, \[ x_1 = a_1f_1 + a_2f_2 + a_3f_3 + u \] といった数式として表現される。(a1 ~ a3は因子負荷量) ちなみに,Rなどを利用すると,重回帰分析において説明変数間で交互作用を想定する分析も可能となる。 \[ y = a_1x_1 + a_2x_2 + a_3x_1x_2 + b + \epsilon a_3は交互作用の係数,\epsilonは誤差項 \] また,ここまでパス図的な思考に慣れてくれば,ニューラルネットワーク的なモデルにあと一歩のところまできたことになる。 意欲的な人は,ぜひそちら方面にも手を出してみて欲しい。 この辺りはすっかり自分のことを棚に上げて書いていますが…。
相関関係を考えるときに見逃してはならない効果として切断効果(breakage effect / selection effect) , 群合併の効果, 曲線相関(curvilinear correlation )などがあります。
例えば,国語と英語とは相関があると思われますが,成績上位のクラス,中位のクラス,下位のクラスといった感じにクラス分けをおこなったときには,各クラスにおける相関係数は全てひっくるめた形で計算したときよりも相関が低い値になるでしょう。 また,同様に国語と英語の成績の相関を見ようとしたときに, 入試後の成績データを用いた相関係数と, 入試前の成績データを用いた相関係数を考えてみましょう。 おそらく不合格者のデータがあるため後者の入学前の相関係数の方が高いことが予想されますが, このような母集団の性質を考えた上で相関係数の高さを考える必要があるということです。 難しい言葉で言い換えると,相関関係を分析するときには,「等質性をもつと想定できるように区分せよ」となりますが, このような「外れ値」の混在に気がつかないことによる誤読は,Simpson's Paradoxともよばれています。
そして,相関係数を求めるときには基本的に直線の相関関係を想定して計算しますが, 必ずしもそのような前提が成り立たない場合もあることに注意が必要とされます。 例えば,間歇強化のように強化子(renforcer)が毎回必ずしも提供されない状況(ギャンブル場面)において,行動の強化ががもっとも強く働くことが知られていますが,このような状況は直線相関ではなくて曲線相関の状況といえるでしょう。
本当かどうかは分からないけど・・・。こんなニュースが流れていました。 マスコミって恐ろしいですよねえ。 基本的には,階層性の問題(隠れた学力 or 文化的再生産)として論じるべき話であるのに, いつの間にか「早寝,早起き,朝ご飯」が 学力を高めると論じられるようになってしまっています。
主食と主菜,副菜,一汁の4品がそろった朝食を食べている小学5年生の61.8% が「学校がとても楽しい」と感じていることが28日,千葉大の明石要一教授(教 育社会学)ら研究者グループが2006年に実施した調査でわかった。朝食が不足し ている子どもは生活の夜型化の傾向が進んでいることも明らかになった。
食事などが子どもの生活リズムに与える影響などを調べている明石教授らの調 査研究会が実施。06年9月,東京や鳥取など1都2県の小学校4校の5年生計231人を 対象に調べた。 (07:00)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070529AT1G2803928052007.html
他にも,例えば文科省が行っている全国学力調査では, 秋田県,福井県,石川県,富山県といった日本海側の県が上位を占めてます。 このとき,これらの県では,持ち家住宅敷地面積,持ち家率,共働き率,米生産量などが 高いことが知られています。 つまり,学力を目的変数とおいたときに,持ち家住宅敷地面積,持ち家率,共働き率,米生産量などを 説明変数とした重回帰分析を行えば,おそらく高い説明率が得られるでしょう。 しかしながら,はたしてそれらの要因が学力と因果関係として成立しているかというと, ほとんどの人は違和感を感じるでしょう。 こられの県でどのような教育的取り組みをしているのか考えるのが自然でしょう。
このタイトルはThe Japan Timesの記事で見かけたものですが, 有り得ない因果関係を利用して読者の興味を引きつけている点で, 記事としてよくできていると思います。 ↓は元ネタでしょうか…。
Entertaining TV shows make you eat more
--- Distracted brains don't notice how much you're shoveling into your mouth
It seems that distracted brains do not notice what the mouth is doing, said Dr. Alan Hirsch, neurological director of the Smell and Taste Treatment and Research Foundation in Chicago.
http://www.msnbc.msn.com/id/19014841/ (2007.06.06)
直訳すれば,「テレビ番組があなたを太らせる」というニュースですが, 因果関係の誤謬がいくら一般的でも, テレビを見ているだけではカロリーを摂取できないのは明らかです。 モニタから発せられるある種の電磁波を受けることで カロリーの消費が著しく低減すると推論することも可能かもしれませんが, これも,あまり賛同は受けないでしょう(そもそも不健康ですし)。 この場合には,テレビの視聴時間と肥満度の関連性を成立させているような, 何か別の要因が存在することが容易に分かるでしょう。
要するに,娯楽番組を見ていると(テレビを見ながら)食べていることを忘れてしまうので, 普通の状態よりもより食べてしまい,結果的に太るということです。 おそらく,テレビを見ている時間が長いと運動不足にもなるから, そういう加算効果もあるでしょう。 つまり,この現象も, 特定の生活スタイルをもつ視聴者層という潜在変数的な考えが有効である事例になっているような気がします。
相関にもとづいて因果関係を推測するのが回帰分析であるが, 複数の説明変数を利用したモデルが重回帰分析である。 たとえば,テストの得点(目的変数: Y)を予測するために,説明変数として 動機尺度(X1)やメタ認知能力(X2),自己肯定感(X3)などを考えたりする。 このとき,数式としては次のように表される。 \[ y = a_1 x_1 + a_2 x_2 + a_3 x_3 + b \]
bは切片で,A1は動機尺度の標準偏回帰係数を表し 目的変数をどの程度説明しているかの目安となる数値となる(-1〜+1の間の値をとる)。 また,その数値が統計的に有意かどうかを判断するために, t値とその生起確率をチェックする。 (エクセルでもVBA分析ツールで「相関」を選ぶと変数間の相関関係が自動的に分析できます。この相関行列のチェックも忘れずに行いましょう。)
そのモデルが統計的に有意であるかどうかはF値 (分散分析の結果=モデルによる変動とそれ以外の変動を比べて,どちらが大きいかの比) が有意かどうかを調べれば分かる。 そしてR^2は,目的変数Y(テスト得点)の全分散がモデルでどれくらい説明で きるかを表す(0〜1.0 ... 要するに,何パーセント説明できたかという数値)。 また,決定係数(=R^2)は重回帰分析においては効果量として機能している。 一般的には決定係数が0.5以上であれば精度が高いといわれていて、それ未満だとモデルとしてあまり評価されないことが多い。 ちなみに、偏相関係数と標準化偏相関係数の二つが示されることがあるが、必ず標準化された偏相関係数(標準化偏相関係数)を使いましょう。
結果は,この様に記述する。
モデルR^2は0.777で有意だった【 F(3, 98)=12.899, p<.01 】。
特にメタ認知の標準偏回帰係数が0.52…。
以上の話を数式で表すとこのようになる。 \[ \sum_{i=1}^{n}\ (y_i - \overline{y} )^2\ = \sum_{i=1}^{n}\ ( \hat{y_i} - \overline{y} )^2 + \sum_{i=1}^{n}\ ({y_i} -\hat{y_i} )^2 \] \[ (y_iは実測値,\overline{y}は実測値の平均,\hat{y_i}はモデル値:モデル値\hat{y_i}の平均は実測値の平均と等しい)\] この式の内訳は, \[ \sum_{i=1}^{n}\ (y_i - \overline{y} )^2\ は全平方和(全ての分散),\] \[ \sum_{i=1}^{n}\ ( \hat{y_i} - \overline{y} )^2 は回帰平方和でモデルでどれくらい説明できたかの分散,\] \[ \sum_{i=1}^{n}\ ({y_i} -\hat{y_i} )^2 は残差平方和(誤差平方和)でモデルで説明できなかった残差と表現できる。\] そして,R^2の決定係数は,全平方和と回帰平方和の比となっている。具体的には以下のような関係として表現できる。 \[ R^2 = \frac { \sum_{i=1}^{n}\ ( \hat{y_i} - \overline{y} )^2} {\sum_{i=1}^{n}\ (y_i - \overline{y} )^2\}} \] \[ = 1 - \frac{\sum_{i=1}^{n}\ ({y_i} -\hat{y_i} )^2}{\sum_{i=1}^{n}\ (y_i - \overline{y} )^2\}} \]
エクセルでも重回帰分析は可能なので,どちらが自分にとって分かりやすいか比べてみても良いだろう。 いずれにしても,欠損値がないデータをを利用することになるのは同じであるが(SPSSなどでは欠損値を平均値に置き換えて計算する機能があったりする)。
余談ですが、重回帰分析の変数として名義尺度(性別、所属クラブ、経験の有無)も利用できます。例えば、男性を0、女性を1といった具合にダミー変数(dummy variables)として置き換えて重回帰分析の変数として利用できます。他にも、休日を0、平日を1といった具合にダミー変数化可能です。 しかし、所属クラブを文化系を1、運動系を0と設定したうえで、更に細かく吹奏楽部を1、美術部を2、体操部を3…といった具合にクラブを重複して設定すると多重共線性の問題が発生するので注意が必要です。(文化系・運動系か、細かく分けるかどちらかのタイプのダミー変数を使う。) ちなみに、ダミー変数にするのは名義尺度(カテゴリカル・データ)なので順序関係はありません。ただ、最終学歴のようなデータは名義尺度ではありますが、順序尺度に限りなく近いデータも存在します。そのように考えると、長男、次男、第1子、第2子、といったデータも名義尺度なのか順序尺度なのか処理する文脈によって考えなければいけないかもしれません。
実はこのセクションは息子@小学6年生の宿題をみていて思い立った箇所です。 ですから,基本的には小学校高学年くらいで身についていなければならない知識であると言えると思いますが, 意外と難しい内容も含んでいるかもしれません。 例えば,折れ線グラフと棒グラフの使い方の違いや,4次元グラフの作り方など, 他の人に口で説明しようとすると意外と困ることがあります。 ということで,このセクションは息子に説明したときの備忘録という雰囲気があるかもしれませんが, グラフ作成の基本的事項の整理として読んでいただけると幸いです。 ここで言及している次元は数学的次元を意味しており,物理的な次元(量の次元)とは異なります。 物理的な次元は基本次元(長さ,時間,質量,電流,温度,物質量,光度)がありますが,ここでは数学的な次元(基底ベクトルの数)を意味しています。
先ずはじめにグラフ作成において重要なポイントは,軸(変数)の性質を定めることにあります。 例えば,変数が 連続量(continuous quantity)なのか, 離散量(discrete quantity)かでだいぶ扱いが変わります。 連続量の代表例は,時間や重さといった単位が候補として挙げることができるでしょう。 別の言い方をすると,データの順序を変えることができないような順序尺度(Ordinal scale)が相当してるといえます。
それに対して,離散量の代表例は,性別,県名,所属クラブといった,いわゆる質的な変数を挙げることができるでしょう。 これらはいわゆる質的なデータ,名義尺度(Nominal scale)とよばれるもので, 尺度水準(scale levels/levels of measurement)でいうともっとも低いもので, 距離的な情報量が少ない尺度であります。 質的な変数に対する対義語として,量的変数とか数量データといった呼ばれかたもあります。
なお,距離的な情報量がもっとも多い尺度は比率尺度(Ratio measurement)とよばれるもので, 次に間隔尺度(Interval scale), 順序尺度(Ordinal scale), 名義尺度(Nominal scale)と続きます。 このうち,平均値を求めてもかまわない尺度は間隔尺度以上の尺度水準とされていますが, 理論的には,5以上の範囲をもつものであれば順序尺度でも(一応)大丈夫であるとされております。 (参考:萩生田・繁枡,1996 ”順序つきカテゴリカルデータへの因子分析の適用に関するいくつかの注意点” 心理学研究, 67, 1-8)3件法と4件法あたりがグレーゾーンと考えられているようですが, 4件法くらいがぎりぎり無難なところ?
順序尺度の場合は,例えばAさんが1着,Bさんが2着,…Eさんが5着といった具合に5名走ったとしましょう。 そのときに,5名全体の平均順位の平均を計算することは,直感的におかしいと感じると思います。 それに対して,5名それぞれのタイムをストップウオッチなどで計測した場合には, 5名全体の平均タイムを計算することはきわめて自然なことに感じされるはずです。
ちなみに,離散量=名義尺度の話のときに良く出される冗談として, 食べ物の好みで,「洋食傾向」と「和食傾向」の話がよく出てきます。 そして,その中間点=平均値は???と話を振って・・・中華???となるかどうか, 要するに,平均値を求めて良い尺度はどんな尺度なのかという話につながっているわけですが。 …もちろん,爆笑するほど面白い話ではなくて,仕方がないから聞いてやるみたいな感じでしょうか
このあたりの話は,後述する心理尺度作成のときにも関係するので, 少し注意が必要かもしれません。 ひとまず,分布が偏っていたりした場合には,色々とチェックして測定のポイントが一定間隔であることを確かめた上で, 平均値を使うと良いと思います。 場合によっては,中央値や四分位偏差値等を見ておく必要があるかもしれません。
そして,脱線ついでに話をすると, 箱ひげ図(Box-and-whisker plots: 平均値を中点とし,箱の上を平均+1標準偏差, 箱の下を平均−1標準偏差で作り,ヒゲの上を最大値,ヒゲの下を最小値)等を作成すると良いかもしれません。 (※正規分布しているときには,平均値±1標準偏差のあいだに約70%の値が含まれる) 他にも,標準偏差の代わりに標準誤差を利用した箱ひげ図や, 四分位数の中の第1四分位数と第3四分位数を利用したものもあります (この場合は平均値ではなく中央値を利用することになる)。 前者の箱ひげ図は統計的な有意差を考察するときに有効であり, 後者の箱ひげ図は大きな外れ値がある場合に頑健であるという特徴があります (四分位数と四分位範囲は,少数の外れ値からの影響は受けずにデータの広がりの情報を維持しやすい)。
また,一口に平均値といってもいくつか異なるものが含まれています。 ただし,例えば,普通にいわれている平均値は算術平均と呼ばれているものですが,他にも加重平均,幾何平均,調和平均, さらには移動平均などもありますし, 中央値といった概念も重要だと思います ( 算術平均・幾何平均・調和平均の関係 )。 可能であれば,標準偏差の概念とあわせて理解しておいた方がよいと思われます。 例えば,データの分布が左右称であることを想定しがちですが, 大きい値の方向で見た偏差と,小さい値の方向で見た偏差を区別して考える必要があります。 つまり分布が歪んでいる場合には, 平均値と標準偏差の代わりに中央値や四分位偏差値を要約統計として利用する必要があることもあるということです。
加重平均の考えのなかで教育現場で重要なケースとして,テストの平均値などが考えられます。 例えば,α中学校(500人)の平均が70点,β中学校(1000人)の平均が80点の場合,2つの中学校の平均点を単純に計算することは妥当な操作だろうか。(70+80)÷2で計算すると75点となるが,人数が異なる場合において単純な算術平均を求めるのは好ましくないことがわかるだろう。そのような場合は以下のような加重平均を求めるべきだ。 \[ \frac{70×500+80×1000 }{500+1000} =76.67\]
次に,その変数が独立変数か,従属変数かも重要なポイントです。 独立変数とは,ひとくちで言うと実験などで操作して変更する要因となるでしょう。 そして従属変数とは,独立変数が変化した結果生じた変化,つまり, 原因結果といった因果関係でいうと結果に当たる部分といえるでしょう。
この2次元の組み合わせでいうと, (連続量・離散量)×(連続量・離散量)という格好になります。 このとき,離散量×離散量の場合はグラフではなくて表(table)として表現するのが一般的だろうと思います。 データをパーセントで表示するのが多く見受けられますが,表のかたちで示すときにはできれば実人数(頻度)を使った方が適切です。 そして,独立変数が離散量で従属変数が連続量の場合は棒グラフ, 独立変数が連続量で従属変数が離散量あれば折れ線グラフないしは棒グラフが一般的だろうと思います。 具体的にいうと,勉強スタイル(離散量)とテスト得点(連続量)だと,棒グラフで表現されることが多いでしょう。 年齢(連続量)と食事の好み(離散量)だと,複数の線からなる折れ線グラフが使われることが多いと思います。 独立変数,従属変数ともに連続量であれば,散布図になる可能性がでてきます。 例えば,身長(連続量)と体重(連続量)の関係をグラフで表すときは散布図を使うことが多いはずです。
散布度はそれぞれの尺度水準ごとに以下のように分類できます。
総頻度と各カテゴリー度数との比較。例えば,図書館において本の貸出数,雑誌の貸出数,DVDの貸出数の集計データがあった場合,それぞれのカテゴリーの頻度をまとめたものが散布度に相当します。これは更に本の種類として,ノンフィクション,実用書,小説といったカテゴリーを設定したり,同様に雑誌も漫画,実用書,小説といったカテゴリーを設定可能です。
四分位数をもとにした偏差。順に並んだデータを4等分し,その境界となる第1四分位数(Q1:25%タイル)と第3四分位数(Q3:75%タイル)の差を四分位数範囲(inter quartile range)とよびます。そして,それを2で割った値を四分位偏差(quartile deviation)とよびます。 式とし表現すると,Q=(Q3-Q1)/2となります。 正規分布しないデータの場合は,外れ値に強い代表値と考えられ,中央値と一緒に用いられています。
平均からの誤差平均の大きさを表現したものとして分散,標準偏差がある。
その他,尖度(kurrtosis)と歪度(skewness)といった指標もある。尖度は分布の尖り具合を表す数値で,正規分布を0とし,プロスの値であれば尖った値となる。歪度は分布の非対称性を示す数値で,正規分布を0とし,分布が左に偏っっているのであれば正の値,右に偏っているのであれば負の値となる。
ところで,散布図と棒グラフは非常によく似ていると思いまいますが(そうでもない?), 決定的に違うのが棒線グラフの場合にはX軸が階級(離散量)になっているところにあります。 つまり,連続量であるものを無理矢理階級として表現すると棒グラフになるわけですが, このとき,連続量を離散量的に「美しく」表すテクニックとしてスタージェスの公式というものがあります。 この公式に頼らなくても,常識的には階級のインターバルはせいぜい5個〜10個くらいになるだろうと思いますが…。
ちなみに,0次元の世界は普通は点だけの世界で,1次元は直線の世界で, 2次元は2つの直線によって構成される面の世界で,3次元は立体の世界といわれています(いわゆる現実世界)。 このとき,次元の基準を構成できる座標軸の数と考えれば, 4次元グラフ!というのを書くことも容易になると思います。 例えば,身長(連続量)と体重(連続量)の関係をグラフで表すときは散布図になるわけですが, これを性別(離散量)という軸を導入すれば3次元のグラフができます。 更にこれに人種(離散量)という軸を導入すれば, 理屈の上では4次元のグラフができるわけです。 しかし,我々人類は3次元の世界に生きている生物なので, 一般的にグラフもやはり3次元ぐらいに留めておく方が望ましいかと…。(笑)
以下のTIPSは「図表の作り方が身につく本」永山嘉昭著(高橋書店)を参考にまとめました。 ※上述した離散量,連続量もあわせて考えた上でグラフや表を作成してください。 その他のTIPSとして グラフに綺麗にデータラベルを付ける方法があります(日経パソコン)。 英語版では,Which chart or graph is right for you? といったTIPSもあります。
エクセルを利用して箱ひげ図を描く方法は以下のサイトが詳しく解説しています。
信頼性(reliance/reliability)とは測定の精度を意味し, 妥当性(validity)とは測定された内容が意図したものとどれだけ一致しているかを意味している。 心理学者は,尺度の標準化(standardization)をおこなうことが好きな人が多いので, 信頼性と妥当性は知っておいた方がいいでしょう。
さて,その尺度が,何のためにあるのか…という素朴な疑問はさておいて, 信頼性の高い尺度では,その尺度の個別的な項目間で一貫性があるはずである。 例えば,ある質問項目でYesと回答した被験者は,同じ尺度内の別項目でもYesと回答するはずである。このような一貫性をチェックする尺度として,クロンバックのα係数があるが,これ以外にも以下のような様々な分析手法が存在する。 心理尺度を作成するときには,相互に相関が高い項目を選び, 項目数を増やすことによって 尺度の信頼性(一貫性とか内的整合性:internal consistency)を高めるのが基本的な手続きである。
例えば,合計得点の高低によって被験者を分割する。どの項目についてもその平均値は上位群の方が下位群より高いことが予想される(逆転項目などは適宜変換しておく)が,高低双方のグループの平均値を計算し,グループ間で平均値の差の検定(e.g., t検定)を行えば有意な差が見られるはずである。理想的には,上位軍,下位群で差が見られた項目のみを残して,それ以外は尺度から取り除く操作も考えられ得るが,相対的な差の大きさによって判断するのが普通である。
尺度得点の高い被験者は,それぞれの項目でも高いと予想される。項目得点と尺度得点との相関係数を見て,あまりにも低い項目は尺度から取り除く。 例えば,尺度得点に対する相関係数(の絶対値が)が0.3未満であるような項目は, 尺度の整合性を考えると不良項目と見なされても仕方がないであろう。 そして,この値が0.2未満である場合には,よほどのことがない限り尺度に含めることはないと思う。
S-P表は主に成績評価の関係で用いられることが多いが, この分析は(Yes/No)で回答するタイプの一般的な心理尺度のチェックにも適用可能である。 被験者を縦軸(尺度得点の高低でソートする)にとり, 横軸に問題の難易度(正解数やYESの数でソートする)にとって, 回答パターンを分析する(もちろん,縦軸・横軸は入れ替えてよい)。 例えば,中程度の難易度であっても, 高得点群も低得点群も同じように間違っているような変な問題があったりする。 つまり,高得点群・低得点群を識別する力の低い問題(項目)といえるであろう。 このような問題は,S曲線とP曲線のズレとして検出され, 到達度を測る問題として不適切である可能性が高い (実際には,曲線ではなくて, ガウス関数のような階段状のラインになり, ガタガタなラインが大きくずれる部分を集中的に分析することになる)。 関連する概念として,項目反応理論(item response theory)がある。
尺度全体を同等と見なすことのできる2つの尺度に折半し, それぞれの観測値(尺度得点)間の相関係数を求めれば, これを信頼性の指標とすることもできるであろう。 同様の発想に基づいた検討方法としては,再検査法(test-retest method) や平行検査法(parallel test method)がある。
上記の折半法には,
折半する方法が1通りではないという問題がある。
すなわち,
可能な全ての折半方法を考慮した信頼性の推定値を求めた方が適切であることが分かるであろう。
このような推定値がクロンバックのα係数である(単にα係数と呼ばれることが多い)。
α係数の値が1に近づくほど一貫性が高い尺度といえるので,
一般的な利用上の目安としては,
0.7〜0.8を目指して各下位項目を付けたり外したりしていくことになる。
ただし,本当にα係数が1になる状況というのは,
尺度内の質問項目相互の相関が1になるような状況である。
つまり,同じ質問項目がずらっと並んでいるような状況だから,
基本的にはありえない話である。
理想的な尺度(項目群)とは,それぞれ似たようなことを聞いているんだけど,
微妙に違っているような項目群で,項目間の相関もだいたい.4〜.6
くらいで,項目数も5個くらいの,そんなイメージだと思う。
測定しようとしている対象が曖昧な場合がほとんどであろうから,
複数の項目で幅広い領域をカバーすることが重要であることと関係している。
ちなみに,エクセルを利用するとα係数は次のような手順で計算する。 まず初めに,A.尺度得点の合計を求める(sumを利用),B.その尺度得点の合計の分散を求める(varを利用),C.各質問項目の分散を求める(varを利用),D.各質問項目の分散の合計を求める(sumを利用),E.尺度得点の合計の分散を分母とし各質問項目の分散の合計を分子とした計算をする(尺度得点の合計の分散が大きれば大きいほど良い=尺度得点がバラついていることは,同じ質問項目群に対して一貫して同じ回答をしていることを意味している),F.自由度(質問項目/質問項目-1)を求める,最後に,G.自由度✕(1-E)の計算をする。 参考までに,宮川洋一・森山潤 (2011) 道徳的規範意識と情報モラルに対する意識との関係一中学校学習指導要領の解説「総則編」に示された情報モラルの考え方に基づいて, 日本教育工学会論文誌 35(1),73−82. の「正義・規範尺度」のアルファ係数を計算するエクセルのファイルを載せておく。
以上のように,(古典的な)テスト理論(test theory)に基づけば, 尺度の信頼性はある程度自動的にチェックできる。 しかし,尺度の信頼性が高いことと, 測定している内容が妥当であることとは基本的に別の話である。 「信頼性は妥当性に包含される」と言い換えることができるかもしれない。
例えば,I-T相関分析を行ったり, 尺度内の各下位項目を付けたり外したりしてα係数が高くなる条件を探ることもできるし, S-P表を作成して識別率の低い問題をテストから除外することもできるようになる。 しかし, 測定しようとしている概念と尺度とが論理的に対応しているかどうかは保証されていない。 つまり,信頼性を高めようと努力した結果, 尺度が特定の内容に偏った質問項目ばかりになってしまうこともあり得るわけである。 このような問題は論理的妥当性の問題, 内容的妥当性(content validity)の問題と呼ばれている。 例えば,国語のテストを作っていたつもりなのに, いつのまにか道徳のテストになってしまったという笑えない話はよくあるかもしれない。 他にも, 「歴史的思考力」といった概念を測定するためにはある程度の長さの資料を渡して考えさせる必要があるはずだが, そのようなテストで測られた「歴史的思考力」が「国語の読解力」とどのように違うのか見極め困難である。
また,心理尺度を作成する目的,質問紙を作成する目的を考えると, 更に別の妥当性の問題もでてくることもわかるであろう。
例えば,何か新しい心理尺度を作成するときには, 普通は既に存在する別の尺度との関連性を調べたい場合がほとんどであろう。 その動機は様々であるが, ある特殊な集団と別の集団との識別を容易にするために新しい尺度を作成することは, 実用面で重要な意味をもつだろう。 このような研究状況で重視される妥当性として, 基準関連妥当性(criterion-oriented validity)が存在する。 ここから派生する概念としては, 予測的妥当性(predictive validity)と併存的妥当性(concurrent validity)がある。
この妥当性は, 新たに作成した心理尺度と既存の心理テストの相関を調べたり, 何か別の独立変数を設定してG-P分析を行ったりすることによって検証される。 例えば,学習方略に関する尺度を作成したならば, 学業成績の高低で被験者を分割し, 優秀者と劣等者を独立変数として各項目得点に差が見られるかをチェックする必要もあるだろう。
なお, 上記の妥当性に関するチェック項目(内容的妥当性, 基準関連妥当性)は項目分析以外にも, 尺度得点全体についても検証が必要とされる項目であるのはいうまでもない。
例えば,探索的な因子分析を行うと, どんなにいい加減に作った質問紙でも最低一つはもっともらしい因子が発見(捏造?)される。 しかし, 当然のことながらその因子が本当に実在するかどうかの保証は全くない。 また,いくら真面目に作成した質問紙によって測られても, その因子が本当に実在すると言っても良いかどうかは, その後の追加研究によって検証をまたなければならない。 そして,その因子の実在性やもっともらしさを検証する方法として, 例えば,特定の因子得点を従属変数とした分散分析やカイ二乗検定などがしばしば実施されるのである。 cf. カイ二乗検定の説明
カイ二乗検定において3つ以上のカテゴリがあるケースで有意であった場合は,多重比較を用いてそれぞれのカテゴリ間で比較を行う必要がある。 たとえば,2X3の分析を実施したときに有意差が見られた場合,下位検定として3のカテゴリのなかで多重比較が必要とされる。 ただし,検定を繰り返すことによって偽陽性(Type I error)の確率が増えてしまう可能性がある。 この可能性は他の検定においても成立する問題であるが,カイ二乗検定では多重比較補正が必要とされる。 例えば,一般的に利用されるボンフェローニ補正(Bonferroni correction)において, 3群であれば,A-B,B-C,A-Cの各組み合わせでカイ二乗検定を行う。そして,ボンフェローニ補正により,有意と判断するp値を0.05を3で割った0.0166...以下と設定する。
ちなみに,カイ二乗検定における効果量としてクラメールのVが知られている(クラメールの連関係数;Cramer's coefficient of association)。 この値は\[ 0 \le V \le 1 \]の値をとり,1に近いほど関連が強いとされる。目安として,0.1以下であれば小,0.3であれば中程度,0.5が大とされている。 \[ V = \sqrt \frac{\chi^2}{n(k-1)} \] \[ \chi^2 は\chi二乗統計量,nは全体のサンプルサイズ,kは行または列の少ない方の数。\] 森秀明(2017)「コーパス間における単語使用率の比較」計量国語学,31(3),p.205-221.
心理学尺度集
心理学関係ではあまり馴染みのなかった用語として「テキストマイニング」と「ビッグデータ」があります。
これらはマーケティングの世界や計量言語学で主に使われてきた言葉たちと思われますが,インターネットの普及や検索技術によって,膨大なテキストデータが存在するようになり,心理学の世界でもそれを統計的に分析する必要性が出てきました。つまり,このような膨大なテキストデータという「ビックデータ」をどのように科学的に分析するのかという問題が生じることになったということです。 2012年の時点では未使用のものが多くありますが, これからは質的調査を量的に可視化させるツールという観点で考えると頻繁に利用される技術となるかもしれません。 ビッグデータの活用とは,個人の属性に基づいた行動データを大量に集め マーケティング等に活用することを意味することが多いと思います。
例えばテキストマイニングとは既存の質問紙法のように単純な5件法のような数量データではなく, アンケートの自由記述データのような文章のような質的データを分析するための手法と言い換えることもできるでしょう。 この場合には記述データを語彙分析(形態素解析Morphological Analysis)して, しかる後に何らかの統計的な分析をすることが多いと思います。 形態素解析とは,言葉の意味の最小構成要素に分け,それぞれの品詞を判別する 作業を意味します。 もちろん人手によって品詞を判別し,キーワードを抜き書きすることも可能ですが,相手はビックデータ(大量のデータ)であるため普通は何らかの形態素解析プログラムを利用することになります。 形態素解析プログラムを利用して機械的に分析することには, キーワードを恣意的に取り出さないという副次的なメリットもあるでしょう。 いずれにしても, これによって,原文を読まずに膨大なテキストからキーワードを切り出すことができるようになるわけです。
入手可能なフリーの形態素解析プログラムとして, 和 布蕪(MeCab) や 茶筌(Chasen) , Tofu などが有名です。 他にも,KH Coderという 内容分析(計量テキスト分析)パッケージや Tiny TextMiner もあります。 ここ最近の流行でいうと(2012年の時点では)フリーの形態素解析プログラムとしては和布蕪がもっとも使われているように思われます。 Tiny TextMiner には解説本がありますので, こちらの方が取扱いが便利かもしれません。 しかし,個人的な一押しのソフトはKH Coderです。双対尺度法,クラスター分析,共起ネットワーク,多次元尺度などを網羅していて,これ一本でほとんど全てのテキストマイニングができてしまいます。これがフリーであるのが信じられないくらいです。 KH Coder の解説 by Taira(2019.6.6)
他にもWeb上でフリーで分析できるお勧めのマイニングツールとして AIテキストマイニングがあります。 サンプル「太宰治:走れメロス」。 KH Coderをインストールできない場合はこちらを活用してもいいかもしれません。パッケージで一括して色々な分析ができるのでお勧めです。 KH Coderをインストールすることが難しいMac OSの端末では,おそらくAIテキストマイニングが一番いいのではないでしょうか。 他にもワードクラウド(Word Cloud)に特化したサイトもあります(分析可能な語数がAIテキストマイニングよりも限られています)。
さて,一般的に形態素解析によって得られる品詞情報の中でキーワード(内容語)となる重要な品詞は, 名詞,動詞,形容詞,形容動詞などが考えられるでしょう。 そして,キーワードの同異義語(thesaurus辞書)をあらかじめ考えておいた方が無難なことが多いかもしれません。しかし,このあたりの対応は研究の文脈によって変わりうるかもしれません。 例えば,「予習と復習」「復習と予習」「予習・復習」「予習して復習する」 など,予習と復習に関する概念をどのように表現するかは多様です。 何をどこまで同義語と考えるかは,その後の処理に大きな影響を持つので慎重に判断する必要があります。
しかし,このキーワードの同定については,語用論的(pragmatics)な問題とか意味論的(semantics),な問題など,さまざまな曖昧性が常につきまとっているので,単語を同定しても1つの概念に絞り込めることができにくいという問題があります。 例えば,用いられている状況・文脈によっては,ことば=意味という一定の定義が成り立たないことがあり得るわけです。 「仙台で大雪」であったとした場合に,それが「大学入試の当日」なのか,「スキーに行く日」なのか,それぞれの文脈によって大雪が意味している概念が語用論的に全く異なります。 他にも,同一の単語に対して同一の意味があるかというと,比喩,暗喩,直喩など様々なバリエーションがありうることから分かるとおり,意味論的な立場でもキーワードの曖昧性の問題は根深いといえるでしょう。 ひとまず,以上のような文脈・意味・構文解析ができていれば表現が違っても同じ意味をもつ文章を同定できるわけですが,現状ではそこまでの形態素解析は簡単にはできないようです(これは自動翻訳の世界?)。
上記の意味同定に関する問題を含みながらも, 形態素解析の手続きにしたがって, ようやく客観的にそのキーワードの重要性を統計的に証明する準備が整うわけです。 基本的には,数値化されたキーワードの出現頻度情報をもとにして分析を行います。 そして,複数の内容語がともに同じデータに出現することを共起と呼びます。 一般的には,単純な頻度分析でなく,単語と単語の共起,データと単語の共起などを調べた分析を行いますが, このような分析手法をクロス分析または共起分析と呼びます(派生概念として,双対尺度法やクラスター分析を用いた分析を行うこともあります)。
しかし,この点に関しては非常にあっさりしているというか,逆に 数少ない特定の重要な言葉を拠り所にして判断するのではないというのが,意外な落とし穴といえるかもしれません。 つまり,キーワードの出現頻度とは別にした 重要性判断は行われないため,テキストマイニングに関しては人間の直感的な判断が意外と重要視されるということです。 この部分には質的研究ぽいところが残されていると言い換えることができるかもしれません。
さて,その後の統計的な分析としては, 単純な頻度表(ヒストグラム),クロス表, 相関ルールを分析するもの, クロス集計分析,時系列分析,コレスポンデンス分析(双対尺度法), 強い仮説がある場合には,判別分析も適応可能なようです。 他にも, 「アソシエーション分析」(同時に出現する単語間の関連性を見る分析)や, 「クラスター分析」(テキスト間の類似性からグループ化する分析手法)などもあります。
ここでは,データをグループ分けする統計手法としてよく使われる クラスター分析にしぼって概要を説明します。
一般的に,クラスター分析において入力データとしての非類似度はあまり重要視されておらず,クラスター間の距離をどのように定義するかが分析の中での中心的な問題とされます。そして,クラスター分析では個々のデータの距離は類似度ではなくて原則的に非類似度で計算されます。その手続きを簡単に表すとこのようになります。 (参考文献:言語研究のための統計入門,石川,前田,山崎(編),くろしお出版)
例えば,ある種の質問紙の自由記述欄があったとして,そこの中でのキーワードの出現頻度がえられたとします。 このとき,ある文章と同じ文章の類似度はS11=1とし, 非類似度はD11=1-S11=0と考えます。 これと同様に,同じキーワードの出現頻度をそれぞれ代入していけば,それぞれの文章の類似度(S)と非類似度(D)が計算できるようになるわけです。 参考:文章AとBの距離
次に,クラスター間の距離を求めるときにもっとも使われているウォード法について簡単に説明します。 例えばクラスタAとクラスタBを合併して,新たにクラスタCを作るときに,情報の損失量の増加分を計算して決定する方法がウォード法(Ward method)です。 凝集型の手法 (aggregative hierarchical clustering) は,一般的に分類対象の非類似度行列から計算をはじめ, 一番近いクラスター同士を融合します。これによって新たに形成されたクラスターと 他のクラスターとの非類似度を再び計算し,また最も近いクラスター同士を融合する,といった手続きを繰り返します。 ウォード法を数式的に模擬的に表すと, \[ Δ=S_c - S_a -S_b \] となるときに情報の損失(Δ)が少なくなるように,クラスタを融合していくことになります。 情報損失量=ユークリッド平方距離が普通は利用されますが, ウォード法はまとまりの良いクラスタが出来るため利用されることが多いクラスタリング方法となってます。
実際には,凝集型の手法には他にも最長距離法,最短距離法などいくつかの方法が存在しますが,これらはクラスター間の距離の順序しか持っていません。 そのためクラスタリング合併の判断が難しくなります(参照: 前川, 1988; 心理・教育のための多変量解析法入門〈基礎編〉渡部洋 (編著) )。 それに対して,ウォード法ではクラスター間の距離の値(Δ)そのものが判断指針となるうるため,その点で相対的に優れています。 すなわち,ウォード法では偏差平方和の増分Δに注目してクラスターの分け方を考察していくことができるようになります。 分析に利用した変数それぞれについて,クラスターごとの平均値に差があるのか, 一元配置の分散分析をあらためて行うことも可能です (クラスター=群に分けて,各群の平均と分散を用いて計算する→Tukey法等の 多重比較を用いて群間の差を比較・検定も可能)。
さて,長々とテキストマイニングに関して話を書き進めてきましたが, 教育関係における具体的な応用方法について少し書いてみたいと思います。 例えば,単元の前,中盤,最終段階でポートフォリオを構成させたとして,それぞれの記述データを形態素分析をして,そこから出てきたキーワードについてクラスター分析を行うことができるかもしれません。 ポートフォリオや授業評価アンケートにおける記述データなどは質的研究として客観的な考察の対象になりにくかったと思いますが, これらの質的なデータを量的に可視化させるための方法としてここで説明したようなテキストマイニング(具体的にはクラスター分析等)などを利用できるかもしれません。 テキストマイニングのデータとしては,生徒の主観的な授業感想やポートフォリオの記述データを含むことができるので, これらをある程度の客観性をもって記述できるようになれればかなり大きな進歩といえるのではないかと思います。
もちろんテキストマイニングの作業によっても,言語の曖昧性を完全には払拭できないし,非定型の自由文から話者の意図やニーズ,認識構造を把握することは困難なので,その部分に関しては質問の仕方を工夫する必要があるかもしれません。 例えば,完全な自由な形で記述してもらうのではなく,ある程度回答形式を指定したような定型自由文のようなものを要求するのも1つの手だと思います。原因,理由,結果などを分けて質問するのも良いでしょうし,文章を完成させる方法や,言葉に対して連想させる方法,ロールプレイングさせる方法など,半構成式の質問を駆使しても良いかもしれません。
双対尺度法(dual scaling)には(似たような)別名が沢山存在します。 コレスポンデンス分析(correspondence analysis),対応分析,数量化理論Ⅲ類(quantification method of the third type),最適尺度法,等質性分析とも呼ばれることがありますが,いずれもクロス表を分析するときに利用される統計手法となっていて, クロス分析(共起分析)をするときに利用されます。 【参考資料:「事例で学ぶテキストマイニング」,上田太一郎監修,共立出版】 【サンプルとして,2013年度教育心理学会総会の要旨を載せてみました。】
このクロス表(別名,分割表:Contingency Table/Cross Tabulation)を分析するときには,まずはじめに,似たデータを近くに,似てないデータを遠くに配置するような格好でデータの並べ替えを行います。 このように,行列の項目を移動させて配置を変更すると,対角線上に数値が高いデータが集まるようになります。
続いて,表を構成する行列のそれぞれに変数名を与えてみます。
\[ 行X:x_1, x_2,x_3, ... x_n \] \[ 列Y:y_1, y_2,y_3, ... y_n \]
このとき,X(i)とY(i)の相関係数rの2乗ができるだけ1になるように未知の尺度を推定します。 つまり,双対尺度法とは,このrが最大になるように,割り当てる数値X(i)とY(i)とを求めるものであるといえます。 これは結果的に,固有方程式(eigen equation)を計算することになります。 (参照:双対尺度法による分割表(Contingency Table)の分析)
なお,双対尺度によって求められた結果は,以下のようなポイントに注意して解釈した方がよいようです。 参照:コレスポンデンス分析@マクロミル
抽出語またはコードを用いて,出現パターンの似通ったものを線で結んだ図,すなわち共起関係を線(edge)で表したネットワークを描く機能です。 http://khc.sourceforge.net/scr_r.html
KH Coderで共起ネットワーク分析を行うときの重要な方法としてサブグラフ表示がある。 サブグラフとは,ノード同士のリンクの強さが強い(Jaccard 係数の値が高い)ノードの集合体である。 集合体とは,ノード同士のリンクが強く結びついたノードの集合体を意味している。 KH Coder では,サブネットワークが自動的に色分けして表示される。
このとき,中心性は以下のように定義される。 「ネットワーク型データモデルを用いた問題点の可視化と問題分析への応用例」 (角口, 2015))
「中心性」とは,ネットワークを構成する各要素が,ネットワーク内でどの程度中心的な位置にあるかを示す指標である。出現頻度や,関連性が強い要素をネットワーク型データモデルで可視化し,「中心性」の指標から影響の大きい要素を特定することで,問題の発生傾向や改善が必要な箇所を把握できると考えた。
それぞれ,媒介中心性,次数中心性,固有ベクトル中心性が用意されているが, 個人的には媒介中心性を選択するのが無難と思われる。
どの学年で履修させるかは各学校の判断に任されますが,指導要領の改訂(平成30年, 2018年)にともなってが情報Ⅰが必修化されます。 データを分析するリテラシーの構成要素を考えると,高校で習う情報Ⅰに相当する知識が必要となりますので好ましい変化といえるでしょう。 実際に情報Ⅰは数学Ⅰの(4)「データの分析」との関連が深いので,相互の領域の知識が必要となるのが分かります。 その内容を確認するために情報Ⅰの内容とそれをマスターするために有効なリンクを作りました。
やはり,数式というか数学的知識はある程度必要。 紙と鉛筆を持って自分で証明をしながらじっくりと読まない限り, 統計学を理解するのはたぶん厳しいでしょう。
線形代数(固有値と逆行列)くらいまで勉強しておくと色々と楽になるのは事実だけど, 基本的な道具立ては高校の数2(数学B)くらいまでで十分でしょう。 高校生の頃の勤勉さを思い出して取り組めば, それほど大変ではないと思います。 むしろ, 高校で勉強した内容を実際に使うので, なんで勉強させられていたのかがスッキリするはずです。 自分が収集したデータを自分で分析すると, 具体的に何をやっているのかがよく分かるし, 「辛くて辛くてタマラナイ」といった状況にはなりにくいような気がします。 余談ですが,拙論文に「最大瞬間学力のパラドクス」という論文があります。 そこの中では「勉強すればするほど学力残存度が低くなる」恐るべき傾向が示されていますが, しかし,学習時に利用目的が明示されると学力残存度が高まる希望も示唆さています。
ここ最近わりと評判のよい本のようです。 入門書としてはたぶん一番手堅い本だと思います。
この本はいわゆるクックブック的なカテゴリに分類されると思うけど, 説明も(比較的)丁寧で,基礎から色々な統計手法まで幅広く網羅されています。 とりあえず,これ一冊でたいていの分析ができる基本書といえるでしょう。
上にリンクを張ってますが,
フリーの統計ソフト js-STARの解説にもなってます。とてもお勧めです。
同じ著者の「フリーソフトjs-STARで かんたん統計データ分析」は分散分析など基本的な分析を解説した書籍です。
ISBN-10 : 4774150193 技術評論社 ¥2,068
上で紹介しましたが,テキストマイニングを行うためのフリーソフト “KH Coder”の解説書です。 テキストマイニングを行う人は必ず買った方が良いと思います。
この本を読んでも分析結果の書き方が分からないという人は, おそらく何を読んでも分からないと思う。 それくらい物凄く丁寧に分析結果の書き方が示されている。 ただし,統計学の基礎から説明した本ではないので, 純粋に統計学を勉強するのには適さないかも知れない。
質問紙の具体的な作り方から始まっていることも素晴らしいが, 一番お勧めしたいポイントはほとんどの公式に丁寧な証明が示されている点です。 自由度の証明など,重要だけどつい見落としてしまう概念(横においておく?) もきちんと言及されているので,とてもお勧めです。 あとがきもしっかり読んで, 大学ではどのような勉強をすべきか考えてみてください。
心理学における多変量解析の教科書として大変よくまとまっていると思います。 この2冊を使って院生の頃に多変量解析を勉強しました。
基本的にはタイトルどおりSPSSの使い方を示した本ですが, 統計分析の理論的背景も網羅した素晴らしい本です。 ただ,中級者の少しマニアックな分析が網羅されているので,本当の初学者には若干難しいかもしれません。
鳥瞰図を得たうえで個々の統計的概念をマスターすることは悪い手ではありません。 特に各種の統計技法をどのように使うのか,その見通しを立てた上で勉強するのは, やる気の面でも重要かもしれません。 ということで,あくまでも「分かったつもり」になれるためのマンガとして, 以下の二冊を紹介しておきます。 マンガそのものとしては,もしかしたら非常に微妙かもしれませんが…。
以下のページを見逃すのはとても勿体ないと思う。